雌豚~セックスドール~(1)

 201X年6月30日、俺は自殺した。
 ……はずだった。
 女に騙されて絶望した俺は、酒を飲んで景気をつけてから部屋のロフトにネクタイをかけて首を吊ったんだ。俺は確かに椅子を蹴って身体を重力に預けた。その瞬間、がくんと衝撃を首に感じた。
 気がつくと、俺はベッドの上に寝かされていて、正常位で若い男に抱かれていた。人は死ぬ瞬間それまでの人生の走馬灯を見るというが、男に抱かれたことはなかったぞ。
 俺は服を脱がされたのか真っ裸で、おまけに胸はお椀のように膨らんでいて腰はくびれ、肌は白い。M字に開かれている両脚の間にはペニスがなく、無毛の丘に深々と男のペニスが差し込まれて出たり入ったりしている。
 首の下に見えているのは間違いなく女の身体だ。俺は女になっているのか。
 面白い夢だな。それともこれがあの世か。あの世に行く途中で寄り道してるのか。まあ、どうでもいいか。何しろ俺は死んだ身だからどんなことがあっても怖くはない。人生最悪でも死ぬだけだと言うことはもう解ってる。状況がわかるとだんだん不器用なセックスを身体で感じ始めた。
 見たところ俺より年下のこの男は、俺の身体を一生懸命抱いて不器用に腰を振っている。妙に真面目な表情で額に汗を浮かべて腰を振る様子が見ていておかしかった。ヴァギナに突っ込んで感じているんだろう、目の焦点が合っていない。俺もペニスが身体に押し込まれるときと奥に達したときに身体の奥が収縮する感覚があって、そのたびに射精する瞬間に似た快感を感じる。押し込まれるリズムにそって吐く息と一緒に声が出そうだ。これが女の感じ方か。道理で女がアンアンよがるわけだ。
 男はオーガズムに達しそうだ。口を半開きにしてリズムを速めている。俺も徐々に快感が高まってきた。
「ううっ、あぁっ」
 男がうめき声を上げると、俺の身体の中に精液が浴びせかけられた。熱い精液が身体の中に何度かに分けてビュルビュルと流れ込んでくるのが判る。精液を放出した男が脱力したように俺の上にのしかかってきて、膨らんだ胸が押しつぶされた。男ののびかけたヒゲの剃り跡がざらっと肌に触れた。俺は両脚を大きく開かれたままペニスもまだ身体に入っている。
「苦しい……」 
 俺は思わずそう言ってしまった。ややあってから、俺の上に乗っかっていた男はビクッと目を見開いて俺の眼を見た。目が合った。
「何だよ」
 俺がそう言うと、男は驚愕の表情を浮かべて俺からしおれたペニスを引き抜いて、ベッドから飛び起きて向かいの壁際まで遠ざかった。
 俺は身体を起こした。長い髪が肩に掛った。胸の上に乗っかっていたふくらみが重力に引かれてぷるんと揺れた。何日も寝たきりだったみたいに身体の節々が痛い。肩と首を動かすとボキボキという。
「痛ってて……」
 男はまるでオバケでも見たみたような顔で俺を見ている。……ある意味間違いじゃないが。どうやら死に損なったらしい。セックスでもまた昇天しそこなった。それも女としてだ。どうなってるんだ、こりゃ。
 間の抜けた体勢で遠巻きに俺の様子を伺っている男に「シャワーを借りてもいいか」と訊いたら、バカっ丁寧に「どうぞ、どうぞ」と玄関のそばのドアまで案内された。悪い奴ではなさそうだなと思った。まあ、どんなに悪い奴でも殺す以上のことは出来ない。今の俺は無敵だ。
 バスルームはワンルームによくあるバストイレ一体型だった。トイレとシャワーの間にある洗面台の鏡を見た。鏡に映っているのは若い女、少女の顔だった。まだ十代くらいだな。長い黒髪が肩に流れ、下手に切った前髪が額に掛っている。髪は汗でべとべとする。身体が少し臭い。誰なんだこの子は。それに、あの男は俺が何かするたびにビクビクと反応する。一体この女の身体とあの男はどういう関係なんだ?(つづく)