第12話 Bye-Bye ボーイ(2)

「さ、軽く何か食べてから行きましょう」
「……うん」
 お母さんのあとについて部屋を出た。
 ふらつく脚で階段を下りる。むき出しのひざ小僧が見える。そしてその上にはスカート。なんだかもう女の子になってしまったみたいだ。
 台所の椅子に腰掛けるときにも自分のむき出しのひざ小僧が見えて、スカートを意識してしまう。あまり自由が利かなくて、まるでひざを縛られているみたい。自然に内股になってしまう。
「トーストでいいかしら」
 僕の目の前に溶けかかったバターの乗ったキツネ色のトーストと目玉焼きが置かれた。あまり食欲はなかったけれど、香ばしい臭いにつられて一口かじった。いつもは冷えたご飯と味噌汁かコンビニのサンドイッチだったから、焼きたての温かいパンが美味しく感じた。
「美味しい」
「そう、良かった。こうしてお台所で一緒に朝ごはん食べるの久しぶりね」
 お母さんが僕の正面に腰掛けて、小さな器に盛られたサラダをお箸でつまみながらうれしそうに言った。
 食事を済ませると、お母さんが僕の顔をじっと見て洗面所からドライヤーとブラシを持ってきた。
「髪に寝癖がついてるわ。ちょっとそのまま座っていてね。綺麗にセットしてあげるから」
 僕が返事する前に、僕の頭に温かい風が吹きかけられて、髪を右に左に引っ張リはじめた。
「ちょっと伸びてきたと思っていたけど、これからは逆に伸ばさなきゃいけないわね」
 そういいながらお母さんが僕の頭に良い匂いがするクリームみたいなものを塗りつけて、温風を当てながらこね回すようにした。
「うん、可愛くなったわ」
 お母さんがドライヤーを止めて言った。まだ温かい髪にそっと手を当てると、自分の髪じゃないみたいにサラサラになっている。一体、どんな風になったんだろう。
 洗面所に行き鏡を覗き込むと、そこには、少し髪が肩にかかるくらいの、ショートヘアの女の子、がいた。つやつやの前髪がゆるくカーブして額にかかり、伸びっぱなしだった両脇の髪もふわりと耳元にかかっている。
 お母さんはどんな魔法を使ったんだろう。もしかして僕は寝ている間にもう女の子に変えられてしまったんじゃないだろうか。まるきり女の子の姿になった自分にドキドキしてきて、オチンチンがスカートの下で硬くなった。硬くなったオチンチンをスカートの上から手でなぞる。僕は今日これから病院に行ったら女の子にされちゃうんだ、このオチンチンもきっとなくなるんだ、でも本当に可愛い女の子になれるんだったら、もっと可愛い女の子になれるんだったら、ずっと女の子でいられるなら、僕は……。
 今朝から感じていた胸のざわめきの正体がはっきりと意識できた。
 間違いでも何だっていい、脳とか心がどうとか、先のことなんて知らない。
 僕は、女の子になりたい。
「先に車出してくるわね」
 玄関のほうでお母さんの声がした。
「はぁい」
 鏡から目を離せないまま返事した。
 急いで玄関に行って靴を履く。運動靴じゃなく、なるべく女の子でも履きそうなスニーカーを選んだ。ひざの自由が利かなくてうまくはけない。後ろから手を回して、かかとに指を引っ掛けてようやく履いた。
 顔を上げた。玄関の小さな窓から朝の光が差し込んでいる。ドアにそっと手をかけた。
 このドアを出たら、もう戻れない。
 そんな気持ちを振り切るようにドアを開けた。(つづく)

※一週間早く嘘をついてしまってごめんなさい。